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2025.9.2

訪問看護の報酬改定、不正請求が揺さぶる制度の信頼性

2026年度の診療報酬改定に向け、厚生労働省は訪問看護制度の抜本的な見直しに着手している。
その背景には、近年相次いで指摘されている訪問看護ステーションによる不正・過剰請求問題がある。
不正請求は制度の根幹を揺るがすものであり、報酬体系の見直しは避けられない状況となっている。
 
(不正請求の実態と構造的問題)
厚労省が2025年8月に開催した中央社会保険医療協議会(中医協)では、訪問看護に関する現状分析が示された。
特に以下の点が問題視されている。
・高額な報酬を請求するステーションほど、拠点数の増加率が高い
・夜間・早朝・深夜の訪問加算を多用し、報酬を水増しする傾向がある
・ホスピス型有料老人ホームや精神障害者施設を対象とした事業者に不正請求が集中している
これらの事例は、制度の隙間を突いた営利目的の運営が一部で横行していることを示しており、真面目に運営する事業者との間で不公平感が広がっている。
 
(厚労省の対応と新たな指導体制)
2025年3月には、厚労省が「高額請求を行う訪問看護ステーション」に対する新たな指導・監査体制の導入を決定した。
主な施策は以下の通りである。
・共同指導の新設:複数都道府県にまたがる事業者に対し、厚労省・地方厚生局・都道府県が連携して指導を実施
・個別指導の強化:1件あたりの請求額が高い事業者を対象に、抜き打ち監査を含む厳格な対応を実施
・選定基準の明確化:単価の高さが重度利用者によるものか、不適切な頻回訪問によるものかを精査
これらの取り組みにより、制度の透明性と公平性を確保することが狙いである。
 
(報酬改定の見通しと制度の再構築)
2026年度の報酬改定では、以下のような制度変更が俎上に上がる可能性が高い。
・集合住宅における訪問看護の減算措置
・医療訪問看護の包括化(将来的には介護訪問看護との統合も視野)
・夜間・深夜加算の厳格な運用基準の導入
・高額請求事業者への報酬制限措置
これらの改定は、制度の持続可能性と社会的信頼の回復を目的としており、訪問看護の本来の役割である「生活に寄り添う看護」の再定義が求められている。
 
(結語:制度の岐路に立つ訪問看護)
訪問看護は、在宅医療の要として今後ますます重要性を増す分野である。
しかし、不正請求の蔓延は制度全体の信頼を損ない、真摯に取り組む事業者の努力を踏みにじるものである。
報酬改定は単なる数字の見直しではなく、制度の理念と倫理を問い直す機会である。
訪問看護が社会にとって必要不可欠な存在であり続けるためには、制度の健全性を守る不断の努力が求められる。